コラム息切れ プレハワイ


 

■ 02/12/12

 この日は終日自由行動。

 ここまでは観光プランも食事もセットになっているパックだったわけだが、この日ばかりは自由行動。肉を食べるか否かはあくまで自分の意志の問題ということになる。

 いや、別に食事のことなんか大きな問題ではないはずだ。この日記だって書き始める前まではこんなつもりではなかったのだが、パンフレットの予定を見ながら書き始めたら肉の話ばかりになってしまった。もうそんなことを考えるのはよそう。そのとき自然に食べたいものを食べればいいだけの話だ。

 おそらくこの日するべきことはおみやげの購入。仕事を休ませてもらっていることもあり、いろいろお世話になった人に買っていかなくてはならない。たぶん定番のチョコとかになると思うが、同僚のひとりからリクエストされているのはビーフジャーキー。ここでも肉の呪縛が。

 試食ができるようだったらきっと食べてしまうと思う。

 翌日の午前中にはハワイを発って、金曜日の午後には日本に戻ってくる予定。機内でおみやげ用のビーフジャーキーを食べてしまわないように注意したい。



■ 02/12/11

 この日は昼間から潜水艦に乗るはしゃぎっぷり。

 しかし油断は禁物。このところ連続でお肉を食べ続けたことで、おならのくささもかなり高ぶっているはずだ。水中30メートル、密室の中でそんなものを出してしまったら大パニックはまぬがれない。他の乗客のメンタルにダメージを与えるだけでなく、あまりの濃さになんだかわからないセンサーまで発動しかねない。

 逃げ帰るように潜水艦をあとにする私。ホテルでちょっと泣いて、予定を見ると夕食はしゃぶしゃぶとなっているではないか。

 もう肉はうんざりだと思っていた自分。けれども、昨日までの比較的こってりした肉料理とは違い、さっぱりとお肉を楽しめるしゃぶしゃぶに心動かされるのは否めない。

 しかもよく見ると食べ放題と書いてある。自分の中にあった心のダムが音を立てて決壊する。

 結局しゃぶしゃぶを満喫してしまったあとは、なんかポリネシアンマジックショーを見ることになっている。マジックを見て、揺れる自分の気持ちを落ち着かせたいと思う。



■ 02/12/10

 この日はダイヤモンドヘッドやハナウマ湾など、ハワイ観光の定番を見て回ることになっている。サーフィンスポットとして有名なサンセットビーチや日立のコマーシャルの「このー木なんの木 気になる木ー」の木がある公園に行くらしい。

 予定表を見ると、そんな観光の合間にとる昼食はバーベキューとなっている。

 「もう肉はいいよう〜」と言いつつ、やはり笑顔で肉をほおばる私の姿が目に浮かぶ。栄養バランスを考えて野菜も食べる私だが、ペースとしては肉・肉・野菜、肉・肉・野菜とどうしてもお肉優勢になってしまう。

 夕食はバイキング。「いやー、もうさすがに肉はそろそろねえ」と苦笑いしながらも、やっぱり皿に肉を盛り付ける自分がいるような気がする。もちろんここでは肉以外の選択肢をとる自由もあるわけだが、もう自分の意志とは別のところで義務のようなものに突き動かされて肉を盛り付けているのだと思う。

 肉を食べてる間はしあわせでも、食後に自分を振り返って、肉ばかり食べてる自分を疑問に思い始める頃でもある。

 普段の生活ではありえない自問自答。新婚旅行とはこんな風に自分を見つめる旅だったのか。




■ 02/12/09

 この日の午前中、ハワイに到着。

 昼間は展望台や宮殿を観光し、夕方には船に乗ってディナークルーズに出る予定。我ながら浮かれてると思うが、メインディッシュのステーキが出てくるころにはそういう恥じらいも吹き飛んでいるのだと思う。

 それにしても気になるのは、私は船があまり得意ではないということだ。

 おいしく食べたお肉で満腹。ごきげんなのはいいが、船の揺れにあてられてだんだん気分が悪くなってくる可能性もある。胃に高ぶってくる違和感。だめだ、ここでやってしまってはだめだ。さっき食べたのはお肉なんだ。他の人に迷惑をかけるとかかっこ悪いとかいうことではない。これは自分との戦いなのだ。

 そう考えると、別にディナークルーズというのは必ずしも浮かれてばかりいるものではないと言える。

 船で肉を食べるとは、そういうことなんだと思う。





■ 02/12/08

 この日の夜、ハワイに向けて出発することになっている。

 海外旅行は初めてだ。8時間もの長い間飛行機に乗るのも初めてなのだが、楽しみなのは機内食。肉料理か魚料理か聞かれるみたいなのだが、やはりここは迷いなく肉料理をチョイスしたい。ただ気になるのは、外国の航空会社なのでスチュワーデスが日本人ではないかもしれない可能性があることだ。

   「Fish or beef ?」
   「肉!」

 日本語が通じるかどうかなど気にせず、元気に肉と宣言したい。ビーフなんて気取った言い方はしたくない。僕が望んでいるのはあくまで肉だ。肉という現象だ。

 押し黙るスチュワーデスに「N ・ I ・ K ・ U、肉!」と追い討ちをかけたい。

 首をかしげるスチュワーデスのために人文字でN ・ I ・ K ・ Uとやれば、意外と伝わるかもしれない。