●暴力にそむかれて
ご覧の通り、けんか広場である。偽善的な公園名があふれる中、公園の現実を隠さず表現したことに拍手を送りたい。
しかし、広場に到着した私はそこが実に穏やかな公園であるという事実に直面した。確かに「きまり」にはけんかをするなとはない。だが私が望んでいたのは、もっとリアルなけんかである。ここには備え付けの武器も、敗れた者の墓標もない。
宙に浮いた私の気持ち。これ以上は特に書くべきこともない公園なのだが、これから公園内の様子やかわいらしい植物をご覧いただきながら、写真とは無関係に私のイメージの中にある虚構のけんか広場を紹介していくことにする。
●いきなりの血痕
名前のインパクトから充分な気構えで臨んだつもりなのだが、公園の前に立っただけでただならぬ殺気が感じられる。こんな公園は初めてだ。私は手に持った木刀をもう一度強く握り締めることで、闘いの準備ができいることを確かめた。
いよいよ一歩を踏み入れた瞬間、私の目に入ってきたものは赤い血痕だった。まだ鮮やかなそれは、落とされてからそれほど時間か経っていないことを示している。点々と続く先には、人が倒れているではないか。
●騙されて練馬
公園に人が倒れている場合、それは倒れているのではなく寝ているのが常識だ。つまり、自ら公園に寝そべり睡眠の場とする。これまで私が経験してきた公園というのは、そういうものだった。しかし、血痕が点々と続いているとなると話は異なる。
警戒心は保ちながらも、さすがに放って置くわけにはいかないだろう。少しずつにじり寄っていくが怪しい気配は感じない。しかし、倒れた者の肩をゆさぶって顔をこちらに向けた瞬間、まずい、と思った。
●シロツメクサを踏みしめて
ダミーだ。今まで瀕死の人間だと思っていたものは、人形という名前の物体に過ぎなかった。無表情な顔のつくりは私をせせら笑っているようにも見える。そうだ、ここはけんか広場だった。暴力が支配する、世紀末の公園。人が倒れていようが、下手な慈悲は命取りになる。そう心に刻んでここを訪れたはずだった。
しまったと思ったその時、人の気配が私の後ろにあることを確信した。次の瞬間には何かで殴られたような鈍い痛みが走る。
●けんかひろばの掟
…大丈夫だ。まずい思った瞬間、反射的に少し体をずらし、急所を打たれることをまぬがれたようだ。自分に意識があることを確認しつつ、振り向きざまに私は木刀を水平に走らせた。
人体に、ではない手応えが木刀を通して伝わってきた。不意を突かれた相手だが、先ほど振り下ろしたであろうバットで私の攻撃を受けることで、一撃をなんとかしのいだ。なんとかというのは、その打たれた衝撃で敵はバットを手放してしまったからだ。
●犬よやめてくれ
さあ、私の番だ。丸腰の相手をどうしてくれよう、と思った矢先、脇の茂みから犬が飛び出してきた。またか、と、私が向くよりも速く、手に噛みつく。思いきり腕を振り、犬を払えたのはよかったのだが、それと同時に痛みに耐えかね、木刀を落としてしまった。
……改めて敵と向き合う。今や互いに武器はない。いやしかし、相手には犬がいる分こちらが不利か。まだ私の方が崖を背負っている。にらみ合う２人。一触即発、私は緊張の糸を切れないでいた。
●ファイナルファンタジー
先に動いたのは敵だった。うなる犬に「待て」の合図をするではないか。そして拳を固め、おもむろに腕をぐるぐると回し始めた。なんだと思ってみている間も、腕はぐんぐん加速して行きつつあるそのとき、はっと気がついた。さっきまで私たちがしていたことは、けんかとは程遠いだまし討ちに過ぎない。ジャイアンだって正面切って殴ってくる。これこそけんかだ！
その速さがいまだ加速しているはずにも関らず、私には相手の腕がスローモーションになって見えていた。(00/08/08)